唇を少し噛んで、照らされたグラウンドを見る。
私はこの空間に入れないから。
皐は小絵に手を振ってこちらに歩いてくる。
影が視界に入る。
お願い、話しかけないで。
心の準備が出来ていないから。
でも皐には私の思いは届かなかった。
皐の優しさがそこにはあった。
「妃菜子ー!」
名前を呼ばれて反応しないわけがない。
反射的に顔を上げて声の聞こえた方へ顔を向ける。
「えっ?」
スローモーションになる世界。映るのはこちらに向かってくる硬式テニスボール。
私は慌ててそれをキャッチする。
「おはよう。意外と反射神経あるんだね。体育がんばって」
「…ちょ…なによ、それ」
こう言って皐は学校の中へ入って行った。
手に収まるテニスボール。
それは皐の優しさで温かかった。
「やっぱり皐は王子様だよね。みんなに優しいからちょっと妬けるけど」
「…がんばってね、小絵ちゃん」