なぜ教えてくれなかったの。
私に予知能力があればよかったのに。


そんなことを悔やんでも、私は特別な人間ではない。
普通の、女の子だから。
心と体には傷があるけれど、人を愛す行為は他の人と変わらない。



ごめんなさい、生まれてきて。


椿を支えているつもりだったけれど、それは思い込みだった。


でもね、生まれきたからこそ、私は生きていく。





…一歩一歩、家へと近づいていく。
その頃には繋がられた二人の手はほどよく温かくなっている。この季節には丁度いい。




「やっぱり明日台風だね。もうすぐ雨降りそう」




「暗くなってきたね。でも雨ってすごく落ち着く。」




「なんで?」





理由は簡単だよ。
難しい数学より、簡単よ…。





「雑音が消えるからかな…」




お母さんの物を投げる音や、叫び声や、殴る音。
全てが雨の音に消されるから。
音が聞こえないと夢だと思えるから。