忘れてた。
今日が何の日かって。
「そうなの?」
「うん。すっかり忘れてた」
浮かぶ母親の顔。
すると体に刻まれた傷がずきんと唸った。
唇を小さく噛んで、しばらく彼岸花を見つめる。
何もプレゼントを用意していない私は、この彼岸花を見てあることを思いついた。
椿が好きな花だもん。
きっとお母さんも好きになってくれるはず。
土手へと歩みより、空いている左手で彼岸花の茎の部分をそっと触れた。
意外としっかりしている茎。
私は思いきり力を入れた。
「妃菜子?」
「お母さんにあげるの。私プレゼント用意してないから」
ぷちんと茎が折れて、彼岸花は私の手元にやってきた。
近くで見るとより一層赤が目立つ。
「きっと喜ぶよ…」
「そうだといいな…」
一輪の花から再生を求めたつもりだった。
でもこの一輪の花から、
私たちの人生は破滅へと傾いていった。