「泣いて、ごめん。奈月の話をしたの…妃菜子が初めてなんだ。」
「うん、言うの辛かった?」
皐は制服の袖で零れる涙を拭きながら首を横にふった。
「言うのは…辛くなかったかな。でももう一年以上前のことなのにこんなにも鮮明に覚えてるんだなって思った」
鼻をすすり、笑ってこう言った皐。
私も覚えているよ。
椿を失ったあの事件。
私は鞄の中からポケットティッシュを取り出し、皐に渡す。
さすがに鼻水まで袖では拭いて欲しくない。
「ありがと。用意周到ですね。」
「ロッカーの鍵、まだ持ってるんでしょ?行かないの?」
「持ってるけど、行かないよ。」
「なんで?そこに何かが隠されているかもよ?奈月さんが皐に伝えたいことかもしれないよ」
そう言うと皐は視線を下に向けた。
そしてアスファルトの上に置かれていたツーショット写真を手に取る。
「俺は奈月がいたって過去を消したくないから」