胸をはって恋人なんて言えなかった。
奈月に近づき、軽く頬に触れてみる。
それはまだ温かかった。
奈月を抱き抱え、口元に耳を当てる。
呼吸は…ない。
軽く胸に手を当ててもぴくりとも動いていなかった。
「…奈月?どうして?」
腹部を刺されたのか、そこからどろっとした血液が溢れていた。
名前を呼んでも奈月は返事をしない。
肩を揺さぶっても動かなかった。
「犯人を連行します」
その言葉に我に返る。
俺は慌てて後ろを振り返り、パトカーに乗り込む犯人を見た。犯人は、奈月のデジカメに残っていたあの写真の男だった。
黒いパーカーのフードを深くまで被り、手には手錠が掛けられ、視線を下に向けて歩いていた。
横顔では年齢が判断できない。でもきっといい大人だろう。
俺はそんな犯人が許せなかった。
「奈月を返せよ…」