走った、走った。
息が切れるくらい思いきり走った。
手にデジカメを握って。
「奈月…!!」
お前は覚えているか?
体育の時間にお前が倒れたときのこと。
俺さ、どうしても助けたくて気がついたらお前を抱えてたんだ。
お前のヒーローになりたくて。ダサいかな?
俺はお前のたった一人のヒーローになれたかな。
なぜだろう。
スポーツテストの持久走より辛くはなかった。
早く奈月に会いたかったからかな。
「はぁ…はぁ…」
荒れる息も、痛くなる太ももも、どうでも良かった。
先ほど別れた道を通ると、あと少しで奈月の家だ。
遠くから聞こえてくるパトカーのサイレン。
嫌な予感がしたんだ。
“彼岸花の花言葉知ってる?”
俺はお前のいない世界を生きていきたくないんだ…
“じゃあ、またね”
行くなよ、奈月…。