風に揺れる彼岸花は生きたくないと主張しているようだった。
顔を下に向けて風に左右されながら生きていた。
さほど可愛いと言えない彼岸花を、救ったのは奈月だった。
「彼岸花ねぇ…」
俺は花瓶に飾られた彼岸花を指先で触れる。
ちょんっと触ると嫌がったのか下向きのまま首を振った。
「彼岸花ってあまりいいイメージないでしょ?でも私は立派だと思うの。ひっそりと咲いてるように見えるけど一人で生きていけるほど強いってことなんじゃないかなって」
蛇口を止め、ハンカチを取り出し濡れた手を拭く奈月。
俺はそのひとつひとつの行動に見とれてしまう。
「ふーん。そうなんだ…俺、あまり花とか興味ないし…。こんな俺が花係やってていいのかって感じ」
「大丈夫だよ。たぶん花が好きになるよ。私ね?花に囲まれて生活したいんだ。ほら、花ってずっと見てると幸せな気分になるじゃない?」
目を輝かせて俺にこう言う奈月の姿に、俺はもう虜だったんだ。