もう、やめてよ。
そんなのずるいよ。
甘いマスクで笑われたら「嫌だ」なんて言えるわけないでしょ?

そうやって椿は私を夢中にさせる。



「そろそろ帰ろうか。寒くなってきたし」




そう言って椿は立ち上がった。
私もそれに反応して地面から体を離す。


お尻についた草をパンパンと祓って、道へ出た。
サイクリングロードになっているこの道は、どこまで続くのか正直知らない。


白いペンキで矢印が書かれた方向へ人間は素直に進むだろう。



私の人生にもし矢印が書かれていたのなら、私は素直に行かないと思う。


私の矢印は、椿だから。
椿がいる場所へ歩いていく。



私の中の矢印は消えることはない、きっと…。




「妃菜子、こっちおいで?」



私を見つめて手招きする椿は左側へと導く。




「え…?」




「え?じゃないだろ?俺の左は妃菜子専用だから」