“残念だな。八重と初めてのデートだったのに…”
静かな病室に三上さんの声と どこからかの不必要に明るい看護士の声が響く
“ごめん…”
“八重が謝らなくてイイ…本当に謝らなくちゃいけないのは、俺なんだから。”
“………なんで?なんで、そんな事言うの?”
“俺分かってたんだ。八重が入社して来た時から、多田主任の事好きなの。多田主任はすっげえ人だと思う、あの人には何ひとつ敵わないと思ってる。だけど、あの時な。ほら、多田主任と八重の噂が流れて俺がかばった時。あの時、良いと思ったんだ。八重が多田主任の事好きでも。それでもイイから嘘でもなんでもイイから、俺のそばで笑っていてくれる一生懸命な八重が…”
怒りと あきらめと 虚しさと どうしようもないやり切れない想い
声にならない声
複雑な感情の混じった三上さんの気持ちが 痛いほどよく分かる
私達は 似た者同士なのかもしれない
少し長めの綺麗な三上さんの髪を 私は撫でる
幼い少年のように 小さくなった三上さんを今は心の底から愛しい
私達は 何を求め合うわけでもなく ただ抱き締めあった
それは きっとSEXよりも深く 心をつなぎ合わせるための抱擁