きっと朝がやって来たのだろう
廊下ではパタパタとスリッパをで歩くような足音がし うっすらと明かりが瞼を照らす
どこからかテレビの天気予報の声がする
《昨日、沖縄は梅雨入りしたもようです》
…梅雨…かぁ
もう そんな季節になるんだ。私が多田主任と出合ってから一年近くなるんだ…
何かを考えれば 常に多田主任が出てくる
私の中で 多田主任の存在がどんどん大きくなっていく
“おはようございまーす。香坂さーん、検温させて下さいねー”
その声のトーンは短大の時の あの先生に似ていた
目覚めたくない私を否応なく起こす
渋々目を覚ますと 小太りの背の低いパーマをかけた化粧の濃い看護士らしい人が立っていた
そして 三上さんも
三上さんと目が合わせられない
看護士は事務的に脇の下に体温計を押し込み 熱を測る
ピピピ ピピピ
“お熱は大丈夫ですね。身体の調子はどうですかー?”
“あ、はい。大丈夫です”
“そうですか。じゃあ朝一番に検尿がありますから、トイレに行く時は声かけて下さいね。”
嫌なぐらいにテンションの高い声で 私の神経を逆撫でする
“じゃあ”
私と三上さんをチラッと見た後 部屋から出て行く
“…おはよ。”
なんともやり過ごせない空気の悪さの中 三上さんは私の髪をかき撫でながら言った
“おはよ”
私は笑う事さえ できなかった