勿論僕は冗談というか、たちの悪い嘘だと分かっていたが、小さな疑問が発生する。

「死んで、行く?」

死ぬではなくて、死んで行く。
その表現に僕は引っ掛かりを覚えたのだ。
しかし当の本人は、「あれ」と言って、恰も 言っちゃった? みたいな表情をする。
──え、ドジ?

「別にどっちにしろ最終的に君は死ぬんだから」

開き直ったよコイツ。
しかし僕はもうそんな冗談に付き合って居られるほど暇ではなかった。
痛い腹を抱えて、やっとこさ起き上がるとその場にしゃがみこんだ。

「帰っちゃうの?」

「帰っちゃうよ!」

別に遊びに来た訳じゃない。
今となっては一体全体何故どうして僕が此処にいるのか謎だ。

「会えて嬉しかった」

「は?」

そう口に出して釦を見下す。
上目使いで彼はそれはもう花が散るように可憐に笑った。

「これなら僕の命は惜しくない」

「…」

こいつは、

冗談を本気で言っているから、混乱する。
厄介な奴。
僕が今まで生きてきた中──ほんの10数年だけれど──では、こんな厄介者は居なかったし、居ても僕は関わろうとしなかった。
つまり相手も僕に干渉は求めて来なかったのだ。