僕には、親が居ない。
身寄りもない。
覚えてはいないが、僕には「坂上譲」という保護者がいた。
今も一応その人の手配で一人暮らしをしている。
つまり、一昔前までは、坂上伶だった訳で、知らぬ保護者の名を語っていたのだ。
何故それでうまく行っていたのかは、僕には分からない。
いつもお金は知らぬ間に払われており、教師らも何も言わなかった。
「…、なー」
意味もなくそう声に出して、ゆっくり歩き出す。もしかしたら何か言いたいことがあったのかも知れない。
──誰に?
──何を。
さぁ、分からない。
分からないことだらけなのだから。
今日はまだ明るい。
寄り道でもして行こうかなどと脳天気なことを思った。
がしかし。
「!」
喋れない。
そんな暇なかった。
首の付け根を何か固いもので殴られる。
駄目だ。
崩れようとする僕の体を誰かが受けとめる。
今日は何度気を失うのだろうか。
「…釦?」
とふと呟いた。