「やあ、カイ」



後ろからかけられたその声に、カイは親しみと、いくぶんかの苛立ちをのせた表情でこたえた。



「兄上…また城を抜け出されたのですか」

「自分だって一人で城を抜け出すじゃないか。知らないとでも思ってるのか?」



にやにやという表現がふさわしい、とてもではないが一国の主とは思えないその顔に、カイはふっと頬を緩め、本当に親しい人間にしか見せない顔を見せた。



「兄上と私は違います」

「なにが違うものか。お前もこの東領の主だ」



軽いかけあいの中で、お互いが変りのないことを確認しあった二人は、そろってベンチに足を向けた。


それにしても…来るなら一言連絡をよこしてくださればいいのに。


この兄はいつもこうだ。


気が向くままに、神出鬼没をくりかえす。


そう思いながら、カイは明るい金髪をなびかせながら、何やら楽しそうに歌を口ずさんでいる兄に目をむけた。