「そういえば、いいこと教えてあげるよ子猫ちゃん」

「はいはい、なんですか」



またからかわれるに違いない。そう思ったマリーは、再び宿舎へと戻る道を歩き始めた。


この人とは早くはなれたほうがいいような気がする…


あまり人と関わってこなかったマリーにとって、初めて『苦手意識』というものが生まれた瞬間だった。



「当分東王は出陣しないみたいだよ。よかったね」



さらりと男がいった言葉に、マリーはぴたっと立ち止まった。そして男のほうに向き直ったマリーは、怪訝そうに呟く。



「なぜそんなことを…」



自分に言うのか。そして知っているのか。いくつもの疑問を含んだその言葉に、男は答えることなく内心の読めない笑みを浮かべる。



「企業秘密ってやつだよ、子猫ちゃん。それじゃね~」



マリーと遊ぶといいながら、ただそれだけを言い残した男は、軽い足取りで去っていった。