「お師匠様、どこへ向かうんです?」



マリーは後ろを向かず、声だけでシリウスにたずねた。



「うん…城に向かおうと思う」



「お、お城!!?…きゃっ!」



思ってもみなかったシリウスの答えに、マリーは思わずがばっと後ろを向いてしまった。


そのため、少しバランスを崩してしまったマリーをかかえて再びいいように座らせてやったシリウスは、笑いながら答えた。



「ああ、あれほどまでに街に人の気配がないとすると、戦に備えて、念のためにどこかに避難させている可能性が高い。だから、城に行って私たちにも泊まれるところがないか確認しようと思ってな。」



その答えに、マリーは納得したのか、再び前を向いた。


お城…どんなところなのかしら。


マリーにとって、お城とは物語りの中にでてくる、真っ白で美しいものだった。

お姫様と王子様が幸せに暮らす、夢のお城。


昔から森の動物と本だけが友達だったマリーは、よく空想したものだった。


美しい王子様が自分を迎えに来る…そんな物語みたいな場面を。


まさかお城まで見れるとは思っていなかったマリーは、うきうきと気持ちをはずませ、たった少し前に感じた黒兜の男への恐怖なども全て忘れ去ってしまっていた。