「………杏樹」


「ん?」


振り向くと、ユアンが眉間にしわを寄せてあたしを見ていた。



「…大丈夫か?」


「なにが?」


「あいつ。冬矢翡翠」


ユアンの言葉で、頭の中に冬矢翡翠がモワンと出てきた。





確かあたし、学園から追い出してやるって言われたんだっけ…



でも、とくに何かをされるわけでもなくて


その前にあれから会ってないし…



そんなだから、あたしは忘れていたのだ。



「何もないよ?何かされそうになったら、誰かに助け呼ぶからっ」


「……ふうん」



あたしがそう言うと、ユアンはそのままプイッと反対側を向いてしまった。



…………ありゃ?



なんかご機嫌ナナメ?




あたしがポーっとユアンの方を見ていると、由里亜が肩を小突いてくる。



「ユアン君は、杏樹が自分以外に助けを求めるのが嫌なんだよ」



うふふと笑う由里亜は完全にあたしをからかっている。



「だってユアンはあたしに何かある前にいつも助けてくれるから。

あたしが助けを呼ぶときはユアンがそばにいないときっ」


そこまで言い切ると、あたしは椅子から立ち上がる。



「どこ行くの?」


「トイレ。ユアンついて来ないでね」


「行くかバカっ!!!」


何故か顔が赤いユアンに疑問を抱きつつも、あたしはトイレに向かった。