章吾が出て行ったと同時に、授業が始まる鐘が鳴った。
「・・・・実来・・心配すんな」
「先生・・自分が何をしたか分かってるんですか??」
「宍戸に話した事か??そんなに俺との関係バレるの嫌だったのか??元彼だから・・」
「そんな事じゃありません!!!!」
「実来・・・何急に怒鳴ってんだよ」
そんな事じゃない。
章吾に話したって事は・・
章吾は何を仕出かすか分からない。
章吾が、先生を睨んでた。
きっと、先生に敵意しているから・・
今度は、先生が標的になるかもしれない。
「もし、章吾が他の先生や生徒に話したら・・先生は学校を辞めさせられるかもしれないんですよ?!分かってるんですか?!」
そんなの嫌。
先生と居られなくなるなんて・・・。
先生が、先生でなくなるなんて・・・。
考えられない。
私、先生の事・・ここまで好きになってたんだ。
「何でそう思うんだ??」
「え??何でって・・・」
先生は、私に近づいてきた。
「別に、他の先生や生徒にバレて辞めさせられたって、俺には何の問題もない」
「私にはあるんです!!!!」
すると、先生が優しく抱きしめてくれた。
「せ、先生??////」
「お前の教師でなくなったとしても、俺はお前の味方だ。」
「先生・・・///」
先生の吐息が、首元にかかる
「別に、俺が必ずしも教師でなければいけない理由なんてないしな。俺が教師を辞めたら、「菅野蓮」っていう一人の男として、お前の味方でいればいい。ただそれだけの事だ・・」
「・・・・先生」
そうだよね。
先生が教師を辞めても、先生との縁が切れるわけじゃないんだし・・。
先生が私の味方で居てくれる以上、私は生きていける。
そしてまた私も、先生の味方でずっと居たい。
だけど、せっかく教師になった先生の夢を、簡単に壊したくないと思ったのも、事実だった。
-蓮 side-
実来が、俺の教師の立場を心配した。
素直にうれしかった。
だけど、俺が実来に対する想いってのはそれ以上で、教師の夢を壊されたって、俺が実来の味方でいればいいんだ。
俺は実来を裏切らない。
俺は、実来だけを愛し続ける。
宍戸・・何を仕出かすかなんてわかんねーが・・
この俺を敵にまわしたって、何もくずれやしないさ。
まだまだガキのお前にはな。
「先生・・//そろそろ離してください」
「ダメだ。お前、昨日俺を拒否ったからな」
「うっ・・まだその事を・・・もう!!何でこんな事ばっかりするんですか??//急に・・その・・抱きしめられると・・び、ビックリするじゃないですかぁ・・//」
「・・・・・内緒だ。バーカ」
「ばっバカって!!///」
別に「お前が好きだから」なんて言ってもいいんだが・・
たぶんこいつ、信じそうにないからな。
なら、積極的にアピールでもして、気づいてもおうじゃねーか。
「先生・・・笑ってません??なんか不気味ですよ」
「笑ってねーよ。バーカ」
「またバカって言いましたね!!///」
「うるせー静かにしろ。抱き心地が悪くなる」
「なっ/////もう!!」
「ハワイ?!」
「ああ。そうだ」
夏休みになって、教師の俺にも休みが与えられた。
「ハワイに・・・連れてってくれるんですか・・??」
「ああ。嫌か??」
「い、いいえ!!!!」
実来が、頭を横にブンブン振っている。
そんなにハワイが嬉しいのか・・。
「ただしハワイでも、夏休みに与えられた課題はちゃんとやれよ??」
「え・・・??旅行にまで課題を持っていくんですか?!」
「旅行??・・何か勘違いしてないか??」
「へ??旅行でハワイに連れてってくれるんじゃないんですか??」
「お前は、自分の状況を分かってるのか??」
「状況・・??」
「一学期、テストの成績・・現国赤点、数学Ⅰ赤点、歴史赤点、家庭科赤点・・・」
「あ~!!分かってますよ・・じゃ何なんですか・・ハワイって」
「強化合宿だ」
「合宿?!」
「ああ。成績が良かったのは英語だけだったからな実来は・・それは俺の教科だから嬉しい事なんだが・・3年に上がれないぞ??このままじゃ」
「うっ・・・」
「この俺が、お前の為に・・わざわざ合宿に付き合ってやるんだ。文句ないよな??」
「は、はい・・・だけど、何でハワイじゃなきゃいけないんですか・・」
「それはだな・・・・・内緒だ」
「また内緒ですか・・」
「明日から3週間、準備しておけよ??」
「はいはい・・・って!!明日ぁぁぁ?!」
こうして俺は、実来をハワイに連れていくことにした。
ハワイにはあいつが居るから、実来をビシバシ成長させてもらわなきゃな。
-実来 side-
「うわぁぁぁ!!ハワイだぁ~!!!」
先生が、ハワイに連れてってくれるって言った時は、本当に嬉しかった。
だけど、強化合宿ってどーよ。
しかもハワイで・・。
先生の事だから、何か企んでそうだなぁ・・(涙)
だけど、先生と2人っきりでハワイ・・///
私の心はもう弾んでばかり。
たとえ、勉強だらけの3週間になったとしても、先生の授業を独り占め出来るって考えただけで、胸が躍った。
頑張って、少しでも先生の期待に応えなきゃ。
「実来、海なんて見てる暇ないぞ??こっちだ・・・」
「は~い・・(涙)」
だけど、目の前に綺麗な海があるのに・・飛び込めないなんて・・
生殺しだ(涙)
私は先生の後を歩いた。
「着いたぞ。ここだ」
「・・・ん??ホテル・・じゃない」
先生が連れて来てくれた場所はホテルじゃなく、超でっかい家。
「先生、ここは??」
「今日から俺達が3週間泊まる場所だ」
「え??もしかして・・・先生の別荘ですか?!」
先生は金持ちだからね!!
「いや。別荘に違いはないが、俺のじゃない」
「じゃ・・・誰の・・・」
その時、デカい門が開いて、中から60代くらいの燕尾服のおじさんが出てきた。
「お久しぶりです・・蓮様」
「おう。久しぶりだな秀さん。こいつが実来だ」
「初めまして実来様。ようこそいらっしゃいました」
そのおじいさんは、私に頭を下げた。
「は、初めまして!!岡田実来と言います!!」
「私は、この別荘の使用人をしております。西園寺秀治(サイオンジヒデジ)と申します。さぁ・・坊ちゃまが中でお待ちです。どうぞ・・」
坊ちゃま??
「ほら行くぞ」
「え、は、はい!!」
そして私達は、屋敷の中へ案内された。
"ギーー"
「こちらでお待ちください。只今、坊ちゃまを呼んでまいります」
「ああ。分かった」
そして秀さんは、リビングを出た。
「先生!!これどういう事ですか?!」
「これって??」
「誰ですか??坊ちゃまって!!」
私は先生にヒソヒソ話で話した。
「そんなにヒソヒソするな・・別に怪しい所じゃない」
「だって・・・」
「坊ちゃまってのは、お前の家庭教師だ」
「なんだ・・家庭教・・・・はぁぁ?!」
「うるさいぞ・・・実来」
「家庭教師って何ですか?!」
「言葉のままだ」
「私聞いてませんよ?!」
「言ってないからな」
「何で言わないんですか?!」
「言ったらお前、来ないだろ??」
「・・・うっ・・」
いや、たぶん来たと思うけど・・
先生と一緒だし・・
って!!今はそんな事気にしてる場合じゃない!!
その時、リビングのドアが開いた。
そこには、笑顔で私達の所に向かってくる男の子がいた。
笑顔が超似合う。
カッコいいと言うよりは、カワイイって感じの子。
身長も、先生よりは全然小さくて・・・。
「やぁ、蓮兄さん・・久しぶりだね」
「爽、久しぶりだな」
爽??この子の名前かな??
「坊ちゃま、この方が岡田実来様でございます・・・蓮様の、恋人でございます」
「こ、こ、こ恋人///!!」
「何だ実来、本当の事じゃないか」
「そ、そうでした・・・」
つい【恋人】というフレーズに反応してしまった。
そうそう、私と先生は(仮)の恋人同士だった。
「初めまして!菅野爽(カンノソウ)って言います。年は、君と同じ17歳。よろしくねっ、実来ちゃん・・・」
私に笑顔で挨拶してくれた爽君。
優しそうな子・・。
「岡田実来です。よろしく・・爽君」
この子が、私の家庭教師・・・??
そして爽君は椅子に座った。
「爽は、俺の親父の弟の息子で、俺とは従兄弟だ。」
「従兄弟・・ですか」
「蓮兄さんには小さい頃からよくしてもらっててね、僕の憧れなんだ」
爽君は、目を輝かせて話していた。
「菅野家って・・従兄弟の爽君までお金持ちなんですね・・」
ちょっと圧倒されてしまう。
「菅野家は、昔から色んな国に拠点を置く会社だ。日本での社長は俺の親父だが、アメリカで拠点で置いて、取り締まってるのが爽の親父さんなんだ」
「へ、へぇ~・・・」
「まぁ、俺の曾おじさんから育ててきた大事な会社だからな。爽も大変だろ??次期アメリカ支部の代表取締役なんだからな」
「え?!」
この子が・・・次期・・・取締役??
「仕方ないよね・・僕、一人息子だし」
菅野家・・恐るべし。
「ところで爽、あの頼み聞いてくれるか??」
「うん。もちろん!!蓮兄さんの頼みだもん」
「悪いな」
「あの頼みって・・・・??」
「僕がみっちり、実来ちゃんに勉強を教えてあげるよ」
「・・・やっぱり・・・」
ハァ・・せっかくの先生とのハワイ・・・。
全然2人きりじゃないし・・・。
3週間・・・ハァ・・・
ため息しか出てきません(涙)
しかし、ビックリする事はこれだけじゃなかった。