「キッチンって人が少ないから、最初は目を瞑ろうかと思ったんです。嫌ならホールの子が、無視をすればいいことですから。でも料理を任せたときに、注文通りに出せないし、注文を受けてから10以内に出すというルールすら守れなくて。だからお客様から、苦情が出る前に辞めてもらいました」

「はあ…片岡君ってすごいねえ。辞めてもらうなんて…あたし、言えないよ」

片岡君が、首を振った

「僕だって苦渋の選択ですよ。悩んだ末の結果です。店長にも相談しようかと思ったんですけどね。あの人も良い人だから…ていうか、優柔不断って言うんですか? 相談しても、答えは『もう少し様子を見ましょう』しか返ってきませんから。店のことを考えるなら、辞めてもらうしかないって」

「素晴らしい」

あたしは思ったままを口にした

片桐君は、なんとも言えない表情をして、あたしから視線をそらした

「本当は、頑張って欲しかったんですよ。一度、就職に失敗して辛い思いをしてるって言ってたので。残念です」

片岡君が苦笑した

話をして歩いているうちに、あたしたちはマンションの下までたどり着いていた

本当は悪いから、帰ってもらおうと思っていたのに

すっかり片岡君を話込んでしまった