「知らないけど」

あたしは通学のときの駅の様子を思い浮かべた

大勢の人に囲まれ、電車が来るのをホームで並んで待つ

その中には、知らないおじさんばかりで、見知った顔はいない

「でしょうね。いつもMDを聞きながら、携帯をいじってますもんね」

「はう…そこまで知って…なんで声をかけてくれないのよ」

片岡君は目を細めると、肩を竦めた

「だって声をかけるなってオーラが出てますから。なんかこう…緊迫したオーラっていうか、『あたしに近寄らないで!』っていう雰囲気がぴりぴりと伝わってくるんですよね」

「確かに…電車に乗る時は、そんなオーラを放ってるかも。だってぽやーっと乗ってる日に限って、痴漢に遭うから…さ」

そうなんだよねえ

気分が良くて、ぽけえっと空を見上げてたり、楽しい行事前で心が浮足立ってるときって、あたしは痴漢に遭いやすい

一番怖かったのは、合コンからの帰りの電車内だ

酔ったおじさんに手を掴まれて、身体中を触られた

時間にして10分くらいだったけど、怖くて震えが止まらなかった