「ありがと」

「バイト仲間じゃないですか。マンションの下まで、送りますよ」

「それは…悪いよ」

ぶかぶかの片岡君の革靴で、あたしはゆっくりと前に足を出した

一歩二歩と足を動かすたびにパカパカと、奇妙な音が鳴る

男の人の靴なんて、久ぶりに足に入れたよ

小さい頃は、父親の仕事用の靴に足を入れては、母親に『水虫がうつるわよ』って言われてたっけな

「どうしてですか? こんな遅い時間に、女性を残していくなんて、出来ませんよ」

「紳士だねえ、本当に高校生?」

あたしは努めて明るい声で声を出した

片岡君はバイクの向きを変えると、手で押してあたしの横を歩く

「まあ、高校生ですよね。今日から冬休みですけど」

「そっか…高校生は今日からかあ」

「鈴木さんは違うんですか?」

「うーん、万年休みって気がしてねえ。いつから冬休みって区切りがないっていうか」

片岡君が鼻を鳴らす

「嘘でしょ? ちゃんと短大に通ってるのを知ってますよ」

「ええ? どうして?」

「だって、通学の電車が一緒ですから」

「ええ?」

あたしは足を止めると、片岡君の大きな背中を見つめた