「そうそう。約束、忘れてませんよね?」
トボトボと重い足を引きずるように歩くあたしに、安本さんは気づいてないらしく 明るい声で尋ねてくる。
「約束…ですか?」
なんだっけ。
「あー!やっぱり忘れてた!
コーヒー。奢ってくれるんですよね?」
あぁ。その事か。
「あー。そうでしたね!すみません、ドタバタしてて頭から抜け落ちてました」
「あはは…!長谷さんって面白いね。
じゃあ、今日にでも行こうか。喫茶店」
…ん?
「それは…どういう…」
缶コーヒーとかで奢るんじゃないのか?
「あれ?言ってなかったっけ。俺缶コーヒーとか、インスタントとか そう言うの苦手なんだよね。
コーヒーは好きだけど、やっぱり挽きたてが美味しいもんねー。
駅のすぐ側に美味しい喫茶店があるんだ。案内するよー」
「えーっと…」
マズイ。このままだと流される。
いくら同僚で約束もしたとはいえ、こんな展開はヤバすぎる。
大和に見つかりでもしたらきっと 血の雨が降るぞ。
少ない脳みそをフル回転させ あたしはどうにか断ろうともがく。