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「……っ」


月明かりが少しまぶしい。

カーテンからもれる光が、あたしとお兄ちゃんを照らす。


あたしはどきっとしてカーテンを閉めた。

まるであたしのいけない行いを見られてるようで、お前はいけないことをしてると責められているようで痛かった。


「……」


お兄ちゃんの寝息だけが聞こえる。

顔を近づけると、お兄ちゃんの暖かい息が鼻を掠める。


身を乗り出して、そっとその髪に触れる。


お兄ちゃん。

お兄ちゃん。


「お兄ちゃん……」


小さくつぶやいたその言葉は、まるで禁忌の言葉のように。

切なく、そして甘くあたしの耳に跳ね返って聞こえた。



「……りぃ」


びくん、と体が大きく跳ねた。

反射的にお兄ちゃんのそばを離れる。


「……」


寝言か。

ほっと安堵したあたしは再び近づく。

そして少しだけうれしかった。もしかするとあたしの夢を見ているのかもしれない。

少しだけそう自惚れてしまったから。

あたしの影がお兄ちゃんの体に重なる。



「……はる、な……」



……まるで。

絶望の淵に落とされた気分。


「春……菜」


お兄ちゃんは寝ていても一番愛しい人の名前を呼ぶのかと思うと、とてつもなく苦しくなった。