「理沙ちゃん!」
クラクションが鳴る音とともに、もう聞きなれてしまった女の人の声が後ろから響いた。
――春菜さんだ。
「おはよう! 今から学校? 送っていこうか?」
あたしが足を止めて振り返ると、春菜さんは車をあたしのそばへ止めた。
「そんな、悪いです。それにまだ時間に余裕、ありますから」
お兄ちゃんの好きな人の隣なんていたくない。
もしもいたら嫉妬で埋め尽くされた心が悟られてしまうかもしれない。
ひどいことを言ってしまうかもしれない。
春菜さんを傷つけたら、お兄ちゃんに嫌われてしまうかもしれない。
身勝手な考えだと思う。
いやな女だと思う。
だけどあたしはそれくらいお兄ちゃんが好きで――
「いいのよ、どうせもうすぐ同じ家族になるんだから。そんないまさらかしこまらなくても」
あんまり拒みすぎると子供みたいで。
ただでさえあたしはこの人には追いつくことがきっとできないのに。
「……ありがとうございます」
助手席のドアを開けるとおとなしく春菜さんの隣へと座った。