「そっかー。わかった。春菜さん、来るの久しぶりだよね!」


一階のリビングに下りるとお兄ちゃんが作った朝ごはんのいい匂いが漂っていた。

いすに腰掛け無理やり笑顔を向ける。


「あぁ、そうだな。りぃ、寄るところがあるはいいが、早めに帰ってこいよ。近頃物騒なんだから」


「大丈夫だって。お兄ちゃん、本当過保護なんだから」


笑うあたしに真剣な目をしたお兄ちゃん。

じっと目を見つめられ、視線が痛い。
 

暖かく大きな手があたしの頭に触れる。
くしゃくしゃとお兄ちゃんは大きくあたしの頭をかき回すと、ふっと微笑んだ。


「そうかもしれないな。だけどりぃは俺の大事な妹だからな」

 
――大事な妹。

それはお兄ちゃんの口癖だ。

そのたびにあたしの心はちくんと痛んで泣きそうになるというのに、なのにお兄ちゃんの妹はあたしだけなのだと思うとほんの少し優越感に浸れて。 

空しいはずなのにうれしい。

あたしだけのお兄ちゃん。


春菜さんのものでもない。

あたしだけのもの。


馬鹿かもしれない、時々あたしは自分のことをそう思う。

人は誰かのものにはなれない。お兄ちゃんはあたしの所有物じゃない。


そう理解はしているけれど。


身勝手な独占欲だけが心をうめつくす。



「りぃ?」


ご飯を食べる手が止まったあたしに気がついたお兄ちゃんは不思議そうにこちらを伺う。


「どっか、具合でも悪いのか?」


あたしは首を大きく横に振る。

お兄ちゃんがあたしの額に手を当てた瞬間、甘いにおいが鼻を掠めた。

きゅんと切なくなるあたしの胸。


離さないで。

ずっとあたしだけに触れていて。


「そうか。大丈夫か? 最近お前様子変だぞ?」


――お兄ちゃんのせいだよ。

お兄ちゃんが、お嫁さんなんかもらうからいけないんだ。



違う。

あたしが、お兄ちゃんに恋なんてしてしまったからいけないの。

ごめんね、お兄ちゃん。