細くて長い指先が、春菜さんの髪をやさしくすくう。


その低くてやさしい声が、春菜さんの名前を呼ぶ。


やめて。

やめてやめてやめて。


我慢していたものがこらえきれずあふれるかのように、呼吸が乱れる。

気がつくと二人の姿は見えなくなって、あたしはゆっくり歩みを進める。


ぺたんと床に腰を下ろした。

涙を急いでぬぐわないと。


お兄ちゃんがお嫁さんをもらう日が近づいていけばいくだけ。

あたしのお兄ちゃんに対する想いが積もっていけはいくだけ。


あたし、どんどん嫌な人間になっている。



「理沙ー? どうしたの?」


なかなか戻ってこないあたしを不審に思ったお母さんが、名前を呼んでくる。


「大丈夫……ちょ、トイレ……」



嫉妬。

黒くて見えない感情。


あたしの心を覗かれたらきっと真っ黒だ。

あふれんばかりの嫉妬でごったかえすだろう。



もしもそれをお兄ちゃんに見られたら、あたしは絶対に嫌われてしまう。



そんなの、嫌だ。