あたしの名前だけ、呼んでくれていたらいいのに。

その優しい声で、ずっと『りぃ』とだけ囁いてくれていたらいいのに。


涙が頬を伝う。

乱暴にぬぐうと、お兄ちゃんとさらに距離を縮める。

髪をなでる。

指先はお兄ちゃんの頬を這う。


いけないこと。


わかっている。

そしてそれがどんなに重い罪であるのかも。


「……っ」


唇を重ねる。

お兄ちゃん、ごめんなさい。

りぃはいけない子です。


ただ、貴方に好かれたいだけなのに。


単に妹というだけで、女の子として見られないなんて。


妹じゃない。

あたしも、一人の女性として見られたい。

好き。

好き。



言葉にならない切ない思いだけがあふれてくる。

そしてそれは涙へと変わる。



夜中だけ恋人の気分を味わえる。

だけどそれももう少しでおしまい。



お兄ちゃんは結婚してしまうのだから。



お兄ちゃん……。



ずっとこの人があたしだけのものだったらいいのに。

いけない独占欲。


あたしはお兄ちゃんの頬に落ちた自分の涙を指先でそっとぬぐうと、静かに部屋を後にした。