「お父さんに会いに来たんだよ。」
ベッドの横の丸椅子に腰掛けた。
「ここどこ?何かあった?」
不安そうな表情で、瞬きもせずに私をじっと見ていた。
お父さんなのに
お父さんではないような気がした。
「お父さん、疲れてるから眠っていいよ。」
本当は涙が今にもこぼれそうだった。
ぐっと堪えて、笑顔を作る。
「なぁ、直…何しに来た?ここどこ?」
返事に困る私の代わりにお母さんが言う。
「温泉に入りに来たじゃない。旅行中に具合が悪くなって、病院に来たの。心配して直と先生が来てくれたのよ。」
お父さんは、おでこに手を当てたまま、何かを思い出そうとしていた。
そして、ちらっと先生を見た。
一瞬不安がよぎった。
お父さんもしかして、先生を覚えてない?