その後、温まった体で浴衣に着替え、気分良く部屋へと戻る。




鍵を開けるまで、何もなかった。


部屋の鍵を開け、一歩中に入り、お父さんの様子がおかしくなった。




様子がおかしいお父さんに気付き、お母さんが声をかけた。



「あなた、どうしたの?」



お父さんは一点を見つめたまま、動かずに答えた。



「どうして、ここにいるんだろう…」



ベッドの端に座ったお父さんは天井を見上げた。





「何しにここに来た?」



「ここの住所は?」




冗談かと思う程、おかしな質問を繰り返す。



お母さんは笑って答えていた。



まさか、記憶を失っているなんて思ってもみなかった。





頭を抱えたままのお父さんにお母さんは聞いた。




「今、直は何してる?」



右手でおでこを触りながら、少し困った顔をしたお父さんが答えた。




「高校生だろ?」