「自分が誰かもわからないの?体はどこもおかしくないの?しびれたりしてない?」




お母さんを落ち着かせるためにゆっくりと話した。



でも心臓はものすごいスピードで激しい音を立てていた。




『自分のことはわかってるの。でも、今日どうして温泉に来たのかわからないの。奈美が仕事をしていることも忘れてる。ここ何年間かの記憶がなくて…今、話したことも記憶できないみたいで同じ質問ばかりしてくるの…』




携帯電話から漏れる声を聞いた先生が、電話に手を伸ばす。




「お母さん、僕です。すぐに救急車を呼んでください。大丈夫だと思いますが、検査してもらった方がいいので…落ち着いてください。僕ら、今からすぐに行きます。」



電話を切った先生は、私に出かける用意をするようにと言い、私が着替えている間にパソコンで、何かを調べていた。




お父さんが昔からお世話になっている病院へ電話をかけた先生は、症状を伝え、今すべきことを聞いていた。