ある日、いつものように彼がピアノの椅子に座って話しかけてきた。



「おまえ、まだラの音出ないんだって? 遅せ~よ」

「だって仕方ないでしょ! 出ないんだもん」




脹れた私を見てケラケラ笑う彼。




本当は音が出なくてすごく悩んでるのに……

あんたがちゃんと教えてくれないからでしょ!



文句を言おうとした時、パーカッションの二年生が彼に言った。




「荒井先輩、ちゃんと敬語使わせないとダメですよ」



二年生の口調は柔らかいのに、目が怖い。


明らかに私を睨んでる。





やばっ――

そう思った時、彼が口を開いた。