朝食を食べ終えると、ハルキは持ってきたバッグを小脇に抱えて、シューズを履いた。

もう帰るんだ。

時計を見たら、9時半だった。

「また来ていい?」

ハルキは玄関の扉を開けながら、振り返った。

「その時の気分による。」

ハルキは笑いながら右手を挙げて、そして扉を閉めた。

とても静かに。

ハルキの足音が次第に遠ざかっていく。

不思議なくらい、私の心は寒々としていた。

今までいた人間が、自分一人を置いて去っていく。

そんなこと、いくらでも経験してきたはずなのに、涙が出そうなくらいに心細い気持ちになっていた。


両手で、自分の頬を叩いて気合いを入れる。

そして、朝食の後かたづけを始めた。


私は、とんでもない過ちをおかしてしまった・・・?

結婚を控えている身でありながら、フィアンセ以外の男性と一線を越えてしまった。

しかもその相手はフィアンセの弟。

体の関係を持つことが一線だったのなら、新しい一線を作ることにしよう。

そうすれば、少しは、この後味の悪さから脱出できるかもしれない。

最後の砦。

新しい一線は、「ハルキを本気で愛する」こと。

これだけは、絶対超えてはいけない一線。