ガチャ。


私を現実に引き戻したのは、玄関の扉が開く音だった。

重たい足音が、廊下の向こうから近づいてくる。

私の肩に誰かの手が触れた。


「ミク?大丈夫か?」


ぼんやりとする思考の中で、その声のする方を見た。


タクミの黒く潤んだ瞳が見える。

「ハルキのこと・・・聞いて帰ってきた。」


ハルキ。


ハルキ。

ハルキ?


ハルキって誰?

「おい、ミク。いつからここに座ってるんだ?お前、寝てないのか?」

急に足元が冷たいことに気付く。

そして、窓からうっすらと黄色い光が差し込んできていた。

「今、朝の8時だぞ。こんなに体が冷えて。」

そう言いながら、タクミは私をぎゅっと抱き締めた。

そして、タクミはそのまま声を殺して泣いていた。


ハルキ。

もういないの?

私はタクミの背中を力いっぱい抱き締めて、初めて泣いた。

声を上げて、自分でも驚くほどに大きな声で泣いた。