本当は、どっちでもよかった。

満足感から美しいが生まれても、美しいから満足が得られても。

こういうくだらない会話をハルキとすることが、必要だった。

少しでも現実世界を遠巻きに見ていたい。

これから待っている、神に背く情事の前に。


ハルキはワイングラスを唇に押し当てながら、私の横に座った。

「おいしい?」

ほんのりと頬が染まったハルキの顔。

ほんと、弱いんだから。

その頬の染まった横顔が愛しかった。

思わず、その頬にキスをする。

一瞬のふいをつかれて、ハルキは驚いた顔で私を見た。

「びっくりしたよ、いきなりだな。」

「はは、たまにはこんなのもいいでしょ。」

「まあね。」

ハルキは自分のワイングラスをサイドテーブルにそっと置いた。

そして、私の肩を抱く。

私が手にしているワイングラスのうす紫色の液体は優しく揺らめいた。

「これ、全部飲んでからでいい?」

「今日はやけにもったいぶるね。」

ほんと。

自分でもどうしてなのかわからないけど、もったいぶってる。

だって、これからハルキとの時間は朝まで。

ゆっくりとこの部屋で過ごせるんだもん。

少しくらいもったいぶったところで、ムダなことはなにもない。