執事用のスーツを身を包んだ元は、部屋を出ていこうとした

午前中は、元と区役所に行って母子手帳を貰って来た

元は優しい

妊娠がわかってすぐに入籍をした

式はあげてない

あげる必要はないとわたしがいったからだ

両親は挙げたがってたけど、わたしは式を挙げたいとは思わない

だって呼ぶ人がいないのに、式を挙げても意味がないだろ?

わたしには友人と呼べる人が少ない

愛子と知り合って、生徒会メンバーと親しくしている

…が、それだけだ

心の許せる人間などいない

「あ、元
飲み会に鈴村って人も来るのか?」

ドアの前で足を止めた元が、少し上を向いた

「鈴村? …ああ、鈴村 夏姫?
来るんじゃねえの?
飲みメンバーらしいからな…ってなんでナツを知ってるんだ?」

元が首を不思議そうな表情で傾げた

「数学教師」

「ああ、そうか
あいつ、紫桜の教員なんだ」

「『元、格好良くなったわね
きっとあっちもうまいんでしょ?』って言われた」

元がぽかんと口を開けたまま、動きを止める

何回か瞬きをすると、ハッとした顔になった

「何か言われたのか?」

「元のもとカノだってさ」

元が顔の表情を崩すと、『くす』っと小さく笑った

「確かに恋人だった期間もあったには、あったが……すぐにフラれた
翌日には、俺のクラスメートと生徒会室の前で濃厚なエッチをしてたぞ
あいつが、教師ねえ…似合わねえの」

肩を揺らして、笑いながら元が部屋を出て行った