「ナツが心配することじゃない。俺たちはわかり合っている」

…喧嘩中だが

『ふうん。浮気も?』

「浮気?」

『だから、奥さんは元の浮気を知っているの? お嬢様とそういう関係なんでしょ?』

ナツは俺の妻と、乙葉が別人だと思っているから…電話で『浮気』という文字が出たんだな

それで乙葉が勘違いをしたのか

俺に他の女がいると…?

全て理解したぞ

「さあな。まだ仕事が残っているんだ。切るぞ」

俺はナツの言葉も聞かずに、さっさと電話を切ってしまった

聞きたい内容は聞けたし、もうナツと話すのも時間の無駄だろう

『我儘お嬢様』に『浮気』の文字が、乙葉の怒りに触れたのだろう

妊娠にしても学校には通いたいという気持ちを、乙葉はすごく嫌悪していた

自分は母親になりきれていないのでないかって、不安になっていた

俺が勝手に、妊娠させたのに

気にする必要なんてないんだ

「…俺も、少し怒りすぎたな」

俺は口元を緩めると、組んでいる腕を外してパソコンのマウスに手を伸ばした