ここで、母親の男だったタケルについて、話そうと思う。
タケルは、大工の仕事をしていた。
今は、顔もハッキリ覚えていないが、体格が良かったのと、坊主頭だったのは、印象に残っていた。
タケルは、基本的に粗野で、酒癖、女癖が悪かったが、何故か、あたしだけは、可愛がってくれていた。
異父姉が、ある程度の判断が付く年齢であり、短気な性格だったのもあったが、タケルと異父姉は、あまり仲が良くなかった。
その点もあってか、内気で大人しい自分は、扱い易かったのかもしれない。
ただ……。
当時のあたしは、タケルが本当の父親だと信じていた。
苗字が違う事とかも、子供の頭では、あまり不思議に思わなかった。
だから、夜中に、母親と異父姉が、あたしの実の父親が、誰なのか、話してるのを聞いて、例えようのない感情が、押し寄せて来て、悲しかった。
それでも、あたしは、血の繋がった母親や異父姉より、タケルの事が、好きだった。
普通の親の愛情を、与えてくれたのは、タケルだけだったから。