また浪人した。
何度したら気が済むのとヒステリックに喚いていた母親を思い出し、現実逃避に、その滑稽な様を笑った。
浪人生にノイローゼはつきものだ。
それが正しい認識かは別として、俺はそう位置付けている。
「だよな、ノイローゼか、ノイローゼだ俺」
独り言を呟いて、そうであると言い聞かせた。
もうすぐ片手で埋まってしまいそうな浪人回数を数えて、やっぱりそうだともう一度頷く。
毎日机にかじりついて、右肩下がりの成績表に落胆して、予備校では古参になりつつある。
赤本は何度解いたか知れない。
だからきっと、その所為なのだ。
「……ねえ、」
俺を呼ぶ声も。
「……ねえ、」
背筋を這う悪寒も。
「……ね、え、」
耳元に感じる冷たい吐息も。
「──ねえ、わたし、あなたがいいの。」
ぐいっと覗き込んできた白い顔の女も、ノイローゼの所為だと
誰
か
言
っ
て
く
れ
な
い
か。
40,あなたがいい。【エンド】