花瓶の花がしおれていた。
しおれた花は枯れていて、もう根元は腐っていた。
「捨てるか」
がさがさとした花束を花瓶から取り出し、ごみ箱の蓋を開けたとき、後ろから声がした。
「ママ、それ捨てちゃうの?」
振り向けば、そこには愛しい息子。
「ドライフラワーにし損なったからね。腐っちゃったのよ」
「……腐ったら、捨てるの?」
悲しそうに俯いた息子にそっと微笑みを向けた。
「……大丈夫よ」
部屋中に充満し鼻をつく異臭は、果たして腐った花束の所為だろうか。
換気扇を回し、花束を捨てる。
「やっぱり、捨てちゃうんだ……」
ごみ箱へ消えていく花束に視線を投げたまま、蓋が閉じても尚、息子はそこを見詰めていた。
「花はね」
優しく優しく、壊れ物を扱う様に抱き締める。
「あ、」
べちゃっという音と共に、息子の指が床へと落ちた。
「大丈夫、腐っても人間よ」
その指を拾って、ごみ箱へ捨てた。
38,腐っても人間【エンド】