「そんなこと……只の噂でしょう?あたしは別に……」
内心ほくそ笑みながら、親友を庇う体裁を見せる。
「あんたいい子だね。あの子の彼氏もいい奴だし、何か最近、よく一緒にいるよね」
「そんなの……ほら、こんな状況だから相談に乗ってるだけだよ」
少し困った様子で、はにかみながら笑って見せた。
「そんなこと言って。寧ろ、くっついちゃえばいいじゃない。お似合いだよ」
その言葉を待っていた。
舞台は用意された。
状況も整った。
あたしは可哀想でいじらしくて、それでいて彼にお似合いなヒロイン。
「あ、電話だわ」
バッグの中から、音楽が流れる。
携帯を見れば、ディスプレイには魔法使いの彼の名前。
思わず眉根を寄せた。
「どうしたの?」
「……ううん、いたずら電話みたい」
少しだけ不安げな表情を浮かべて見せたなら、何かあれば相談して、と友人が口にする。
マナーモードに切り替えてから、携帯をバッグに押し戻した。
金の催促か、体の催促か。
それとも、これから先の関係性の催促か。
この彼は魔法使い。
王子様な訳じゃない。
さて、どうするか。
あたしがヒロインである為に。
(新たな魔法使いを用意するか、王子様に倒してもらうか)
37,ヒロイック症候群【エンド】