「あたし妊娠したの」


自室に籠もったままだった娘が、顔だけを出して突然そう言った。取り敢えず理解するまでに、十分は要しただろう。口を突いたのは在り来たりな台詞だった。


「え、何?」
「だから、妊娠したのよ」


何故とは口にしなかった。何故も何もない、只の思春期特有の思い込みか、はたまた反抗期の虚言か、それくらいのものだと思い込みたかったのだ。


「……根拠は?」
「だって、」


きいと小さな音を立てドアが開く。娘の全貌を目にした途端、衝撃に眩暈がした。


「ね?」


青白い顔で笑った娘の腹は四倍ほど膨れあがり、薄緑色をした根のようなものが全体に這っている。その中を得体の知れない何かが、ぼこぼこと動き回るのがしっかりと見えたのだ。


「……何、誰の……」


それしか言えなかった。何故かは明白だ、娘はここ一年、一歩も部屋から出なかったのだから。果たして娘は腹から何を生むのか。誰かの子ならまだいいが、しかし。わたしは只、母として、人として、これからに恐怖した。



36,誰かの子【エンド】