そうしたある日、妻が突然死にました。誘拐されて、毒を飲まされ捨てられたところを発見されたのです。遺体検分がされ、わたしは警察に呼ばれました。
「旦那さん、落ち着いてくださいね」
「わたしは落ち着いてますが。どうかしましたか」
「実は……」
一人の刑事によって手渡されたのは、妻の遺体検分についての記録の一部でした。
「奥さん、左目と右肺と盲腸とがなかったんですよ。大腸も切り取られた跡がありましたが……何かご存知ですか?」
「ああ……」
わたしはようやく気付きましたが、特に何も知っていることはなかったので、その旨を伝えてから、警察署を後にしました。
「ああやって金を作っていたのか」
左目と右肺まではわかりますが、盲腸や大腸は何に使われたのでしょう。焼肉屋にでも、売られていったのでしょうか。
「気色悪い女だ」
それだけ吐き捨ててから、自宅への道のりを煙草をふかして帰りました。結末はどうであれ、わたしは妻を愛していなかったのです。
1,日常モラトリアム【エンド】