「ねえ、世界ってここだけだと思う?」


突然、隣の電波系女が何か言い出した。
あんたそんなんだから友達出来ないんだよとは、面倒くさくて口にはしない。
幼なじみっていう口実も、いい加減に飽きてきたところだ。


「あんたさあ、」
「ねえ、どう思う?」


よりによってあたしの言葉を遮った電波系女は、ともすればあたしを試しているようにも取れる。
苛つく、あたしに向かってその態度は何。


「さあね」


ぐっと堪えたのは、それでも自分は飽くまでも普通だという小さな、しかし、絶対的に譲れないプライドだった。
あたしは普通で、でも、あんたみたいなのとでも付き合ってやってるんだよというプライドだ。


「……わかんないんだ」
「はあ?」


その言い方にかちんときてようやく電波系女に一瞥くれる。
一瞥は、凝視に変わった。


「な、何……」
「ねえ、わかんないんだ?」


見たこともない顔で、あたしを小馬鹿にしたような言い方で──得体の知れない雰囲気を纏って、電波系女は、にやりとほくそ笑んでいた。
夏の近い川沿いに、緩く温い風が吹く。
噴き出した汗が、じっとりとTシャツを湿らせる。
呼吸が浅くなる、酸素が足りなくなる、こんな、こんな女に少しばかり見詰められただけで、どうしてあたしがこんな、こんな妙な威圧感を感じなければならないのか。


「わ、わかんないわよ!」
「そう、」


じゃあ、と小さく続けてから、どんっと肩に衝撃を受けた。


「見てきたらいいよ」


あははと高らかに響いた声は、ばちゃん、と川に転げ落ちたと同時に、もう、聞こえなくなった。


「あんたみたいな奴、あたしだって嫌いだわ」



27,世界【エンド】