「ねえおかあさん」
「なあに?」
「どうして横を向いてるの?」


わたしは生まれてからずっと、おかあさんの横顔しか見たことがない。
どうしてだろうと不思議に思って、今日この日、思い切って聞いてみた。


「いいじゃない、おかあさんはいるんだから」
「それはそうだけど」


なんだか腑に落ちないまま、おかあさんの右顔を眺める。


「あ、おとうさんに聞いてみよう」
「そう、じゃあちょっと待っててね」


不自然さなく立ち上がったおかあさんが、すらりと襖を開け、おとうさんの書斎に入っていった。


「どうした」
「あ、おとうさん」


少しだけ開いた襖から、おとうさんの横顔が覗いた。


「あのね、おかあさんいつも横顔しか見せてくれないなって」
「いいじゃないか、おかあさんはいるんだから」
「そうだけど」


おとうさんの横顔を見ながら、そういえば、おとうさんの左顔しか見たことがないなと考えていた。



14,横顔【エンド】