「何も言わないで。武弘にも、雪音にも、誰にも。」


そう言って、祐夏は濡れた瞳で俺を見た。
腑に落ちないが、祐夏がそう言うのなら仕方ない。

武弘にも、雪音にも、というところに、原因はあの二人なのか、と想像はついたのだが。



彼女のお願いには、逆らえない。逆らえるはずもない。




「新曲だ。」



そう言って、譜面ではなくMDを取り出す武弘に、力ない視線を向ける。



雪音も、イヤフォンを外して近付いてきた。




「MD?珍しいな、武弘にしては。」



何でもない風を装って、どちらに向けるでもなく言うと、


「たまにはな。」


と、デッキにMDを押し込みながら武弘が答える。




少しの沈黙のあと、メロディーが流れ始める。



「ギターで作ったのか」



流れて来たのはギターの音だった。



あぁ、と返事をした武弘は、雪音を見ている。




雪音は、固まったようにその曲に聞き入っている。



武弘にしては、珍しいメロディーラインだ。
美しい旋律の、静かなバラード。




最後の音からしばらくの沈黙。それを最初に破ったのは雪音だった。




「これ、本当に武弘が作ったの?」