「なぁ、考えてくれたか?」



机に向かう横顔に向かって、単刀直入に聞く。



「何度考えたって、無理だよ。」



困った顔で、俺に向き直り、村上が答える。




雪音に一方的な想いを告げ、スタジオを出た後、幾度となく通ったこいつの家にまた足を運んだ。



村上は、同じ高校の同級生で、驚くほどのギターテクニックを持っている。


こいつをバンドに誘い続けて何ヵ月になるだろう。



怖いものなし、という雪音の雰囲気とは全く違い、堅実で保守的な男だ。




「お前のギターが必要なんだよ。ボーカルの声に負けない音は、お前にしか出せないんだよ。」


尚も説得を続けるが、首を縦に振らない。



「えらくそのボーカルに熱心なんだね。どんな人なの?」



興味を示したことに少し嬉しくなって、雪音について色々――俺の中の感情についても――話した。



「雪音…?」



とつぶやいたまま目を丸くしている村上に、知り合いなのか?と尋ねる。



「いや、違うよ。」



表情を素早く戻し、穏やかな口調で答える。




そうか?と俺が言うと、黙って頷く。



「ん、じゃあまた来るわ。」



片手を上げて帰ろうとすると、これ、と村上がMDを差し出した。



「何だ?」



「僕が作った曲、君が作ったことにして、彼女に歌ってもらってくれないかな。」



バンドには入らないけどね、と言いながらじゃあ、と机に向かう。



よくわからない、と思いながらも、取っ掛かりになればいいかななどと思い、ポケットに入れた。