目が覚めると、祐夏はいなかった。


『ありがとう』とだけ書かれた小さなメモ用紙が、テーブルに置かれていた。



もう一度ベッドに寝転び、彼女の微かな温もりを抱き締める。



――やっぱり、武弘だろうか。
寂しさを埋める為に俺とこうなったことぐらい、最初からわかっていた。



それでも、いいと思った。


ただ、祐夏の泣く顔は見たくない。



時計を見ると、夕方になっていた。


何時まで寝てたのか、何時からぼんやりしてたのか全くわからない。



とりあえずトレーナーとジーパン――祐夏が昨日着た服はきちんとたたんで置いてあった――を身に付け、赤と黒のチェック柄の上着をはおり、外に出る。



とにかく、武弘に話を聞かないとわからない。




練習は終わっている時間だったので、直接武弘の家に向かう。



陽が沈んだ街は、寂しげな顔をしていて、風がやけに冷たく感じた。




意を決してチャイムを鳴らす。


「武弘さんなら、まだお帰りになっていませんが」



と、何度か聞いた覚えのあるお手伝いさんの機械的な声で、インターフォン越しにそう言われた。




まったく、こんな時にどこ行ってんだ、あいつ。




携帯も出ない、スタジオにもいない。



大きくため息をつき、仕方なくアパートの部屋に戻ることにした。