麻生は大人しい生徒だった。

僕は彼女の生物を昨年から受け持ったが、ほとんど言葉を交わしたことがない。

授業態度にも成績にも問題はなく、いたって真面目な生徒。

ただ、麻生はいつ見かけても、ほとんど無表情だった。

教室のベランダで一人、手摺りに寄り掛かってぼんやりしているのを見たこともある。

高校生は多感な時期だ。ひとりで物思いに耽りたいこともあるのだろう。

ただ、そうしているときの麻生の顔は、なぜだかひどく由紀に似ていた。


「芹澤先生は、担任を持つのは初めてでしたよね」

前田先生がコーヒーを啜りながら、自分のクラス名簿をつまんだ。

「何か困ったら、何でも言ってくださいね」

私は隣のクラス担任だから、と彼女はにっこり笑った。

僕も少し微笑み返してコーヒーを飲み干し、立ち上がって教室に向かった。