あれから空を飛ぼうとすることもなく僕は大人になり、海の見える街で高校教師になった。

母は四年間の結婚生活を経て芹澤さんと別れた後も、何度か男を取り替えたが、結婚にまで至ることはなく、僕らの苗字は芹澤のままだ。

毎朝出勤する前に、僕は浜辺に寄ってぼんやり海を眺める。

海と空が溶けていく境界線を見ていると、このまま泳いでいけば空に着くんじゃないか、なんて馬鹿なことを考えてしまう。

僕がそう言ったら、由紀は何て答えるだろう。きっと、馬鹿じゃないの、と言ってにやりと笑うんだ。

立ち上がって尻のあたりの砂をはたき、僕は学校への道を急いだ。