洗濯物を干し終え、暫しの休息を取った矢央と藤堂は正午過ぎに墓参りへと出掛けた。
屯所の直ぐ側にある壬生寺に芹沢は埋葬されてある。
「此処が芹沢さんの、んで隣が新見さんのだよ」
二つ並んだ墓石の前に立ち、矢央はキュッと唇を結ぶ。
時間にすれば数秒息を止め、はあと吐き出した後、矢央は供えようと持って来た饅頭を置き屈んだ。
手を合わせ瞼をゆっくりと閉じる。
藤堂は黙って見守っていた。
ーー芹沢さん。
私、芹沢さんに会えて良かった。
芹沢さんのおかげでちょっとずつ自由になれたし、素直に気持ちをぶつけてもいいだって思えたよ。
あんまり一緒にはいられなかったけど、でも芹沢さんといる時が一番私らしかったかもしれないです。
……なのに、最後にあんなことしてごめんなさい……痛い思いさせてごめんなさい。
こうなるって分かってたのに、芹沢さんを助けられなくて…ごめんなさい…。
矢央は心で亡き芹沢に語りかける。
ポロッと一筋の涙が零れた。
その時、ザァッと風が吹き荒れた。
思わず意識が逸れ、矢央は薄目を開けて墓を見上げた。
『前を見て歩け、お前らしくな』
ほんの一瞬だった。
芹沢が矢央の前に現れ、そう言った……ような気がした。
「芹沢さ…ん」
幻だったのかもしれないが、確かに心に残った言葉。
矢央は救われた気がして、此処にきてようやく本当の笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
最後のお礼を別れの言葉とした。
「なんだったんだ? 今の風」
秋の空気を漂わす京だが、今の風はまるで春一番である。
「お別れを言いに来てくれたみたいです」
「は? なにそれ?」
訳が分からないといった様子の藤堂に曖昧に笑ってみせて、矢央は身を起こす。
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