「おい」
数刻が過ぎて、土方が声をかけた。
慰めたつもりはない。
ただ新選組でいる以上、此処で矢央にへたってもらうわけにはいかないと思っての行動だったが、何故かキツく言えなかった。
だから形としては慰めになってしまったか、と自分に抱きつく少女を見て溜め息を漏らした。
おいおい。 俺ゃ、ガキは対象外だぞ。
泣き疲れて眠ってしまったらしい矢央は、土方に甘えるように抱きついたまま離れない。
「寝てるんだよな? なのに何で離れねぇんだよ」
引っ張っても、胴体に巻き付く腕の力だけは抜けない。
足の上に乗った矢央の体。また溜め息。
「足、痺れんじゃねぇか」
そんな悪態をつきながらも動かないでいる土方。
「……永倉、こいつ持ってってくれ」
「いいじゃねえか。 まるで親子のようだぜ?」
たまたま通りかかった永倉と眼があってしまった土方は、眼を逸らしながらそう言った。
それに対し、いつか誰かに言われた言葉をそのまま返してやる永倉。
「こんなデカいガキ持つ年齢じゃねぇぞ」
「否、あんたなら分かんねぇぜ。 いってぇ、幾つン時にはらませたンでぃ」
「あのな……」
顎に指を添え、真剣なのかボケなのか分からないような感じで頷く永倉に、土方は呆れた視線を送った。
そこでようやく、永倉はニヤリと笑う。
「ちぃっとくれぇの嫌みは言っても罰は当たらねぇと思うんだ」
「……だから、文句は言ってねぇだろ。 早くこいつを連れていかねぇか」
芹沢暗殺に直接関わりがない永倉だが、土方は永倉に暗殺を隠した。
互いに事実を知ってはいるが、それを公にするのは利口ではないことくらい理解できているので、永倉は嫌みを言い土方はそれを受ける。
付き合いが長いからこそ、永倉は土方を許したのだ。
いつまでも引き摺ってても仕方ないと、永倉はもう前を見ている。
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